追悼・出崎統氏 動かさないアニメ、逆転の発想
2011.4.28

巨星墜つ、の言葉の通り、業界にとってはとてつもない損失と言えるのではないでしょうか。いえ、単に観る側として素直に「残念」と申し上げるべきかもしれません。

去る2011年4月某日、監督・演出家として日本のアニメーション黎明期(1960年代〜)を支えられ、近年も精力的に活動されていた出崎統(でざき・おさむ)氏が亡くなられました。

「あしたのジョー」、「エースをねらえ!」、「ガンバの冒険」、「宝島」、「ベルサイユのばら」……etc. 名作ばかりでまさに「名人上手」の手腕。「出崎演出」と呼ばれた革新的な演出方法はアニメの可能性を拡げ、近年「ジャパニメーション」と呼ばれ世界に誇れる日本文化として躍進した礎を築いて下さったかと。特に「止め絵」の手法は、観る側を画面に集中させ、その場面の背景や人物の心理などを推し量るのに効果的であったと感じます。それは動くことが存在意義であるアニメーションにおいて、敢えて画面を静止することで得られる逆転効果、一連の流れに「メリハリ」を生む技術の粋ですね。

個人的に、杉野昭夫との黄金コンビであった「あしたのジョー」は、拳闘の荒々しさと主人公の繊細な心理を飛び抜けた画力と演出で表現した、いまだに心に残る作品のひとつです。金曜ロードショウ(劇場版「あしたのジョー2」)を録画したビデオをそれこそすり切れるまで何度も見返した思い出があります。昨今のデジタル作画による画面はとても鮮やかで綺麗ではあるのですが、いまいち物足りないのはアナログ手法だからこその「荒さ(遊びとも)」に因るところが大きいと感じます。同じボクシング漫画の「はじめの一歩」アニメ版第一期と第二期で、画面の見え方がずいぶんとちがっていたのが印象的でしたし。本題から逸れてしまいましたが、それだけ時代が移ろう様子を肌で感じているということなのでしょう。


不世出の存在が失われるときは、ひとつの「時代」が終わったようにとてつもない寂寥感に襲われます。出崎統が「アナログ」時代のアニメ手法を確立させたのであれば、今後後進が「デジタル」時代の新たな手法を生み出し、日本のアニメーションを大いに盛り上げてくれるものと期待します。「アニメーション」が創りつづけられ、観つづけられる限りは、先人たちの「想い」は脈々と受け継がれ、けっして失われることはないでしょう。

謹んで故人のご冥福をお祈り致します。