あ〜もう、イライラする! というのは大方の視聴者(特に女性)の所懐ではないでしょうか(笑)。第5週後半でウイスキー事業開始への熱弁虚しく、株主の決定で住吉酒造を辞めざるを得なくなったマッサン(亀山政春:玉山鉄二)ですが、ロクに職探しもせずエリーに迷惑をかけっぱなし。制作側の意図として、この週で亀山夫妻の性格を強く視聴者に印象づけたかったのであれば、その目論見は見事に成功したのではないでしょうか。それにつけても、あれやこれやと難癖つけて現実を見ようとしないマッサンの体たらくには、同じ男でも眉尻がピクピクします。
さて、この6〜10週の半分は、マッサンの実家(広島)が舞台となります。きっかけは母・早苗(泉ピン子)のウソ電報で、父・政志(前田吟)の危篤とあってはさすがに帰郷せざるを得ません。結局、ウソがバレても大阪ですることのないマッサンに対して、政志は酒の仕込みを手伝うよう打診します。「とにかく身体を動かす」、何とも昔ながらの考えですが、おかげでマッサンは自分の裡にあるウイスキーへの情熱を再認識することになります。そして、身重で実家へ帰っていた姉・千加子(西田尚美)の出産を控えるのと平行して、仕込みの行程を経る流れは、とても印象深いものでした。もと摺り(もとずり:酒母を作る作業)の際に唄う「もと摺り唄」を耳にしたエリ−は、「酒母(しゅぼ:酒のもと)」という単語から「お酒が生まれる」ための唄と解釈し、とても好ましいと口にします。千加子の出産に立ち会い、生まれたばかりの赤ん坊を抱くことで、強い母性も芽生えます。マッサン、エリーともども、広島での体験が新たな感情を含めた発見の巡り合わせだったワケです。そして大阪へ帰る決心をします。
ようやく、ようやく数週間を経て、話が動き出すと、視聴者だれしもが安堵したことでしょう。ところがヘンコのマッサンが、そう簡単にまっすぐ道を歩くはずもなく、またしても鴨居の大将(堤真一)と反発してしまいます。ウイスキー(密造酒?)を炭酸で割った「ウヰッキー」なる商品でまずは周知を計ること。これに対してマッサンは「ウイスキーをバカにしとる」と檄おこぷんぷん丸です。以前に太陽ワイン(赤玉ポートワ○ン)のときも同じことで激論になったワケで、成長の跡が見られないマッサンですね。一方、まずは模造品だろうと何だろうと市井に広く知ってもらうことを第一、とする大将の方針は経営者として当然のコト。後日明らかになりますが、本格的な国産ウイスキー事業推進に必要な資金繰りのためでもあります。
個人的には、マッサンの意見には半分……いや三分の一賛成です。正直、いまだに「水割り」なるものの存在価値を見いだせません。基本、シングルモルトはカスク(原酒)をストレートで、が持論です。せっかく良質なモルトが手に入るのなら、加水をせず混ぜ物をせず、そのまま呑むのが良いに決まっています。まだ輸入品すら稀少であった当時ならまだしも、これだけ世界中の物資が高速で往き来する時代ですから、「ホンモノ」を体験しないテはありません。
と、むさ苦しい持論はここまでにして、本題へ。
数えるのもアホ臭い、ケンカ別れのふたり(マッサンの一方的な拒絶とも)。結局、本場スコットランドの職人を迎え入れようとした鴨居の大将ですが、仲介人に不快な言葉を浴びせかけられます。「日本人にウイスキーは作れない」、その罵声に突沸したのは何と通訳として同席していたエリーでした。彼女がカンに障ったのは、愛するマッサン個人でなく「日本人」を小馬鹿にされたからです。広島での酒造り体感を経て、より深い日本文化への造詣を得たエリーだからこそ、本場の人間に対して大きく啖呵が切れるというものでしょう。
これらエリーの尽力もあり、鴨居の大将は態度を軟化させます(いや、やっぱりマッサンがヘンコ過ぎですか)。大将の秘密基地に招かれ、そこで彼の本心を聴くことで、マッサンはようやく鴨居商店への入社を決意します。
晴れて鴨居商店に入社し、国産ウイスキー事業立ち上げのために奔走するマッサンですが、相も変わらず大将とは噛み合いません。天才肌の大将と職人肌のマッサンがタッグを組めば最強、と信じて疑わないエリーは、ここでもなだめすかしながら何とか夫に歩を進めさせます。そうしてようやく、山崎の地に夢のスタート地点を得ることになるのです。長い停滞からようやく物語が動き出す、と思ったら最後は一足飛びに工場竣工まで行き着いてしまいました(笑)。これから製造がはじまるとして、スコッチの基準では最低3年の熟成期間が必要で、特に物語の起伏がなければ一気に5年後、なんてコトも考えられます(あ、でもラストでエリーの妊娠が発覚したので、その間は劇中で描かれるハズですね)。
マッサンの熱意と技術、鴨居の大将の先見性と度量、日本人と日本人が築き上げてきた日本文化、すべてが「ほんまもん」であり、だからこそ異国人であるエリーも心動かされ、夢の実現に協力したくなる。前回掲載分では、エリーの目を通した第三者的な日本の眺め方、といったコトを書きましたが、もはや彼女は日本人も同然です。エリーが「ほんまもん」の日本人と呼ばれる日が、劇中でやって来るのもそう遠くないことでしょう。
全体の三分の一が終了して、ようやく本格的な「ウイスキー」の話に突入……してほしいです。亀山家に家族が増えることになれば、それだけ悶着の数も増えそうですが……。いずれ袂を分かつことになる、マッサンと鴨居の大将の関係にも注視が必要ですね。それにつけてもマッサンの性格……メンドウ臭い。