マッサン 熟成に必要なのは
2015.2.8

まだ若い、若すぎる。鴨居のひと言はとても沈痛で、はるばる北海道から駆けつけたマッサンとエリーに救いを求めているようにも聞こえます。自身の後継として手塩にかけて育ててきた英一郎の夭逝は、鴨居にとって半身を失うに等しい痛恨無念に違いありません。しかし、こんなところまで史実通りにしなくても……。

マッサン、16〜18週は余市工場の操業から俊夫(八嶋智人)とハナ(小池栄子)の婚姻とよろこばしい事柄がある一方で、エマ(住田萌乃)に出生の事実を伝えるという重い内容もありました。何より冒頭で述べた、鴨居英一郎(浅香航大)の死は、我が子同然に接してきた亀山夫妻には大きな哀傷であり、マッサンが次のステップに進むためのイニシエーションと言えるのかもしれません。


ひとまず話を戻して、鴨居商店時代に営業で訪れた北海道・余市に自分の工場を建てる決断をしたマッサン(玉山鉄二)。かつての縁を頼って、ニシン漁師の森野熊虎(風間杜夫)のもとを訪れます。売れ残ったウイスキーをまとめて買い取ってくれた気前の良さ、豪放磊落さは相変わらずですが、周囲との関係は何やらキナ臭い空気が……。地元のひとびとに話を聞くうち、熊さんの現状はまるで芳しくなく、にもかかわらず尚ニシン漁でひと儲けできると吹聴する始末。このままでは工場を建てるどころの話ではないと考えたマッサンは、熊さんの家を出ようとします。しかし、エリー(シャーロット・K・フォックス)だけは、熊さんと息子の一馬(堀井新太)にかつての鴨居親子の関係を見て、これを修復しようと試みます。そうして、ようやく現実を受け容れ、マッサンに自らの夢を託すかたちで、熊さんは周囲のひとびとと和解を果たすのです。遠く故郷を離れ、さらに第二の故郷からも出奔し、夢を追いつづけた過去の自分に、同じく遠く北の大地で夢を実現しようと奔走するマッサンを重ねたからでしょう。兎にも角にも、マッサンは余市で夢を実現するための基盤を得たのでした。

時は過ぎ、マッサンとエリーの愛娘・エマは小学三年生、いろいろなことが気になる年頃です。あるとき、エマが忘れたお弁当を届けにエリーが教室を訪れたことで、同級生たちの注目の的となってしまいます。もちろん、好意的な視線ばかりとは言えず、案の定エマをからかう男の子があらわれます。その子との悶着、さらに学校の課題とちいさな胸を傷めるエマ。森野一家をはじめ事実を知る周囲は何かと気を遣いますが、余計に齟齬が生まれるばかり。そこで、エリーは事実を伝えることを決断します。

「生みの親より育ての親」、結局どれだけの時間傍に居て、どれだけの愛情を注いでいたか、それをお互いがキチンと感じていれば、「血の繋がり」は親子の絆の強さを示す要素にはならないということですね。エマ役の住田萌乃ちゃん、ホントに可愛らしい(関西風にかいらしい)演技で、たまりません。まだ登場期間があるようなので、画面の端々に注意して、堪能したいと思います。

さて、亀山家の問題の背景で、北海道果汁のメイン事業であるリンゴジュースの売れ行きは芳しくなく、新たな販路を見いだした矢先に輸送の悪条件から返品騒動が起きてしまいます。加えて、俊夫とハナは顔を合わせればケンカばかり。亀山家の周辺は相も変わらず穏やかではありません。そんな折、ハナに見合いの話が舞い込んで来ます。当然ながら俊夫は気もそぞろ、いつも以上に険が表に出てしまいます。ハナもなかなか素直になれず、そんなふたりの本心に気づいたエリーは、どうにかしてふたりの関係を進展させたいと目論むのです。ハナへの想いをすり替えるように、俊夫は返品されたリンゴジュースの新たな使い道として、アップルワインの研究に没頭します。俊夫がそんなだから、ハナが余計に近寄りづらくなってしまうのも当然の成り行き。それでも、いい加減ガマンの限界に達したハナは、自ら気持ちを伝えます(本ドラマの女性陣は皆、押しの強い方ばかりですね)。紆余曲折、押し問答の末、ようやく俊夫とハナは晴れて結ばれるワケですが、最大の功労者はやはりエリーでした。一度はマッサンにクギを刺されても「誰もハッピーになれない!」と一喝、熊さんの暴走はともかくとして、最高の結末に導いてくれました。


……せっかくのお祝いムードも、大阪からの一報でどん底へ。俊夫とハナのめでたい席に届けられた鴨居商店の丸瓶(モデルは当然「角瓶」)は、遠く大阪の地で奮闘するウイスキー職人としての同志・英一郎からマッサンへ送られた無言の挑戦状だったのかもしれません。

貯蔵樽の並ぶ倉庫にひとり佇む鴨居。北海道より駆けつけた亀山夫妻に、何より先んじてウイスキーの原酒を勧めます。ひともウイスキーも熟成するには必要な時間があり、突然の死で、英一郎はその権利を永遠に失ってしまった。「親不孝」の言葉には、それらの苦渋が満ちていました。だからこそ、鴨居は言うのです。死者を悼む慰めの言葉ではなく、未来に必ず存在するであろう可能性を求める言葉を。

マッサンの顔つきが、ガラリと変わる瞬間でした。スコットランドからの帰国を決意したときも、鴨居商店に入ることを決めたときも、北海道にウイスキー造りの地を求めたときも、同じようにくくったハズの腹を、さらに締めつけたような、とても頼もしい顔つきです。その覚悟を示すように、偽ってまで出資の増額にこぎ着け、いよいよ北海道でのウイスキー造りに着手するマッサン。理想である「ハイランドケルト」を超えるジャパニーズ・ウイスキーが誕生するのか、期待大です。


何だか内容の薄い記事になってしまいましたが、それもこれも出演されている役者さんの演技がすばらし過ぎたがためです(言い訳)。次回からは可能な限り、ストーリーをなぞるだけでなく、何かしらのテーマを掲げて筆を走らせたいと思います。