私的 もったいないマンガ目録
2015.4.5

まん-が【漫画】①単純・軽妙な手法で描かれた、滑稽と誇張を主とする絵。②特に社会批評・風刺を主眼とした戯画。ポンチ絵。③絵を連ね、会話の文を書き加えるなどして、物語風に仕立てたもの。 『広辞苑(第四版)1991.11.15(第一刷)岩波書店』


人生に終わりがあるように、ひとの生み出す物語にも終焉のときが必ず訪れるのは道理。まして商業誌に掲載という形式である以上、描き手の思惑とは異なるかたちで終わりを告げる作品があるのもまた真理なりけり。

小生が思春期真っ只中だった時期は、ちょうどバブル景気真っ盛りと重なり、小中学生が好んで読むようなマンガ雑誌には、多くの作品がそれこそ水泡のごとく生まれては消えてゆきました。アラフォーとなった現在、思い返せばとんでもないご都合展開や理不尽な締め方で終わっていたものだと、当時のどこか狂乱じみた世情に悪寒を覚えたりします。その後、日本は泡がはじけて不況のどん底へ転じてしまいましたが、商業的娯楽は人気によるペイが必須で、景気が良かろうとそうでなかろうと、儲からなければつづける意味がないことに変わりはありません。むしろ、ニッチに活路を見出すような状況があるのであれば、大勢における生き残りの条件が、それだけ厳しくなったという見方もできるのです。画一的で安価なフランチャイズが好みの大衆派と、独創的で高価な個人商店が好みのマニア、二極化が進み浮動層が減ることで、皮肉にもそれぞれの市場が安定していると言えるのかもしれません。

「好み」という点で、小生は後者に属します。10代後半から純文学に傾倒し、そこで刷り込まれたあれやこれやが、あらゆるものの見方に影響を与え、現在の人格の大半を形成するに至りました(笑)。それはマンガ作品を選ぶ際も同様で、稀少な作品に出逢えばそれだけ思い入れも強くなり、完結後何度も既刊を読み返すことしばしばです。


以下に挙げる作品は、そのなかでも「結末に納得がいかない」あるいは「もうちょっとつづけて欲しかった」と感じたものばかりを厳選しました。もし許されることなら自分がつづきを……などと勝手に脳内補完で満足しようとしてしまうような、中毒症状を引き起こす作品も少なくありません(大仰)。

各作品の紹介はタイトルからはじまり、それぞれの数字に対応した情報と所感でまとめています。通常タイトル以外は非表示となっており、タイトル部分をクリックするとアコーディオン式に内容が表示される仕様です。


①タイトル
②著者(原作・作画別の場合はそれぞれ表記)
③掲載誌(移籍等は→で表記)
④連載期間(途中休載期間等は含まず)
⑤既刊単行本数(初回販売形態に限る)
⑥所感


尚、これはあくまで私憤であり、当時の状況や関係者を誹謗中傷する目的では決してありません(かわいさ余って憎さ……ゲフン)。


★バーテンダー

②城アラキ(原作)・長友健篩(漫画)
③スーパージャンプ → グランドジャンプ
④2004.6〜2011.10 → 2011.11〜12
⑤全21巻

「ソムリエ」、「神の雫」などでお馴染みの城アラキ氏原作で、銀座で働くバーテンダーを主人公とした作品です。1エピソードにつき1〜数話を費やし、後期は単行本1巻分を通して人間関係を補完してゆくエピも見られました。バーテンダーが主人公ですので、洋酒やカクテルを絡めての進行となります。西洋的ホスピタリティ+日本的おもてなし精神を学びたい方にはバイブルと言えるかも。もともとの掲載誌「スーパージャンプ」が統合整理され、新たに「グランドジャンプ」へ転載もすぐに完結。現在は主人公を変えて続編が描かれています(作画も変更)。

終了間際、主要人物のバタバタが見苦しく、いかにも慌てて風呂敷を畳んだ印象。せめて、佐々倉溜(主人公)の過去をキチンと精算して欲しかった。あと、「ソムリエ」も含め、ドラマは最低でした(どちらも某アイドル事務所絡みですね)。

★トライアルライド

②魚住青時(原作)・小林知恵子(漫画)
③月刊アフタヌーン → good!アフタヌーン(当時隔月刊)
④2007.1〜2009.7 → 2011.5〜2012.5
⑤全4巻

よもやアフタで競馬マンガが連載されるとは、と当時はよろこびよりも驚きのほうが大きかったです(競馬は大好きなので)。落ちこぼれの新人騎手が、これまた地方で落ちこぼれた競走馬と運命的な出逢いをし、コンビを組んで中央で活躍する……ハズでした。アフタで一旦休載となり(作画担当の体調不良とも)、グフタへ転載も現役最強馬を1戦負かしただけで終了。

やはり、アフタ系の読者に競馬という題材は無理があったか。地方からのし上がるというオグリ時代(モロ昭和臭)な設定、「風のシルフィード」ばりの突き抜けた感が持ち味で、個人的には好きでした。私的補完を申しますと、師匠が現役復帰してライバル騎手を含め主人公と三つ巴決戦がよかったかなぁ、と。作画担当の方はその後同誌で戦闘少女ものを連載されています(休載がちですが)。

★からん

②木村紺
③月刊アフタヌーン
④2008.5〜2011.6
⑤全7巻

「神戸在住」のほのぼの感、「巨娘」のトンデモ感を経て、写実的な作画と対人関係を綿密に描くという変身を見た作品です。題材は女子柔道で、これもアフタ読者には受け容れにくかったのかもしれませんね。「帯をギュッとね!」をはじめ柔道マンガを好んでいたのと、関西(主に京都)が舞台だった親近感(当時在住)で読んでました。柔道の実力では中の上といった観の主人公が、高いコミュニケーション能力を駆使して、実力者部員(準ヒロインふたり)を育ててゆくという、単純なスポ根ものにない設定と展開が好きだったのですが……。

大きな大会の重要な試合を前に急な終了(明らかに打ち切り)。風呂敷を畳む暇も与えられずといった観でした。もし、作者の方に物語を完結させる意思がおありなら、どのようなかたちでも拝読したいと思える作品です。

★路地恋話(ろぉじこいばな)

②麻生みこと
③good!アフタヌーン(当時隔月刊)
④2008.11〜2012.7
⑤全4巻

上記「トライアルライド」読みたさに買いはじめたグフタで同時期に連載されていた佳作(もしかすると、知らず終いだったかも)。京都に実在するクリエイターたちのための一角をモデルとした作品です。路地の長屋に住む特定の作り手にスポットを当てるかたちの1話完結型で、タイトル通り恋愛話がメインとなります。住人が独立等で入れ替わるため(暗黙の了解)、固定の主人公は存在しません(全話通して住みつづけたのは2名のみ)。クラフト好きで、京都好きで恋バナ好きにはたまらないかと思います。恋バナといってもドロドロとした重苦しさはまるでなく、読後感はとてもさわやかでスッキリです。

作品自体はキチンと完結しており、単行本の装丁が春夏秋冬・四季に倣った仕様だったので、全4巻というのは予定調和だったかと(住人が入れ替わりさえすれば永遠につづけられるワケですが)。なので、ここに列記するのは野暮が過ぎると思いつつも、やはりもう少し読んでみたかったです。他の作品も拝読しての所懐ですが、作者の方はもしかして「枯れ専」でしょうか。

★BUTTER!!!(バター)

②ヤマシタトモコ
③月刊アフタヌーン
④2010.2〜2013.4
⑤全6巻

ソシアルダンス(社交ダンス)に取り組む高校生を描く、オーセンティックなスポ根ものです。卑屈なオタク青年がダンス部を通して人間的に成長してゆく様子や、他の個性的な部員個々のエピソードも好ましく、「公式な大会での成果」という目標を達成せずに完結してしまったのは非常に惜しいです。子供たちだけでなく、教師をはじめとする周囲の大人たちもキチンと関わりを持って彼らの成り行きに寄り添っていた点も好印象。

他の作品を拝見する限り、先述した正統派スポ根ものを描きつづけるということが、あるいは作者の方にとっては苦痛だったのかも、と勝手に想像したりします。かつて小中高を舞台とする正統派スポ根ものは、主人公世代が最上級になって目標達成→完結というパターンが多かったように思いますが、最近は傾向が異なるようです。

★おはようおかえり

②鳥飼茜
③モーニング・ツー → 月刊モーニングtwo(掲載誌名変更)
④2010.6〜2012.11 → 2012.12〜2013.4
⑤全5巻

先述した「路地恋話」同様に京都を舞台とした作品です。主人公は家事以外に特に取り柄もなく、野心もない平凡な会社員。アクの強すぎる姉ふたりに振り回され、平穏な日常はどこにもありません。こちらはかなりのドロドロ、京都という魔都ならではの内容かと思います。(表現上)ストレートな京都人の遣り取りは傍目にはおもしろおかしく映ります。

当初は京都メインで話が進み、主人公が恋人の跡を追って上京することで東西の都を漂う空気の差異が描かれました。恋人と仕事との関係性であちらを立てればこちらが立たず、というのはよくある流れではあるものの、各人の性格や生い立ちを背景に、シビアに描く点は女性作家さんならではないかと。終盤、長姉の妊娠や姉妹の確執を経て、姉弟3人はふたたび京の地へ舞い戻るのですが……。

タイトルからして帰京は予定調和としても、最後は少し急ぎすぎた観があります。できれば東京で暮らす主人公のエピソードをもっと積み重ねてほしかったです(あるいはもといた会社に出戻り、そこからラストへつなげるというのも)。

★すくってごらん

②大谷紀子
③BE・LOVE
④2014.4〜2014.12
⑤全3巻

ある意味、この作品の終了が今回のコラムを書くこととなった最大の動機と言えるかもしれません。最近では特に終了を惜しんだマンガです。

奈良のとある町を舞台にした、「金魚すくい」に関わるひとびとの群像劇。何とも郷愁をかき立てる設定と、スポーツとしての「金魚すくい」を取り上げ、主人公の成長(精神的)を主軸とした内容です。

結構な量の布石をバラまきながら、ほぼ未回収。もうひとりの主人公とも言うべき、金魚屋の店主の設定が活かし切れず、他の登場人物もかなりつくりこまれていたように映るので、尚口惜しや。主人公の性格がアレなのと、やたらモノローグの多いところが読者ウケしなかったのでしょうか? 目標としていた全国大会への参加が1年後と延び延びになったぶん、主人公の成長を含めしっかり描き切れていれば佳作になったことまちがいないでしょうに……。なんとかなりませんかね、このモヤモヤ。

よもやとは思いますが、動物愛護団体からのクレームが打ち切りの原因でないコトを切に祈ります。


と、ここまで挙げた作品を改めて見返してみると……偏ってますねぇ(汗)。週刊少年漫画(JとかMとかSとか)を卒業後、すぐにアフタヌーンやコミックバーズ(スコラ時代)に移行したことで、一様に傾倒してしまったようです。また、少女漫画や女性誌の類は読んでいなかったのですが(「ぼく地球」や「赤僕」ぐらい)、女性作家さんの作品が青年誌に掲載される機会が増えたことで、逆導入的に女性誌掲載の作品を読むに至るという現象が起こったことも大きな要因と言えます。

それにしても、女性の描くお話というのはやはり男性には描けない部分があって、いろいろな意味で幅を拡げる要素になっているのではないかと。なので、作家さんの男女の別なく、「おもしろい」と思える作品は、これからも貪欲に探して、栄養にしてゆきたいです。その途上で、「もったいない!」となる作品が出てくれば、ここへ追記することになるでしょう(できれば増えないことを祈りつつ)。