マッサン・番外編 『モガ』はもがく乙女(ガール)の略なり
2015.4.28

約1ヶ月ぶりに、「マッサン」という名を冠しての新作ドラマが放映されました。サブタイトルは「すみれの家出 〜かわいい子には旅をさせよ〜」です。

表題通り、本篇主人公・マッサン(亀山政春:玉山鉄二)の実妹である、亀山すみれ(早見あかり)が主役の外伝的エピソード。時系列では、マッサンが鴨居商店に入社し、山崎工場でお披露目会が行われた後、エマを養子に迎えた直後の時期でした(第12週終了後・大正13年晩秋)。


穏やかな晩秋の夕暮れ刻、大阪・住吉の路傍に、なぜか、ひとり歩くすみれの姿がありました。片方にちいさな荷物、片方に大阪の住所と某かの名前が書かれた紙切れを手にした彼女の様子は、路に落ちた影のように暗く沈んで見えます。

と、あらすじはドラマ自体を見ていただくとして、今回の舞台は本篇前期の中心であった大阪、それも住吉のさらに「こひのぼり」周辺というミニマムさ。そして大正末期という時代を背景とした「女性の自立」と、すみれ自身の成長を主軸に描かれたストーリーでした。


まず印象的だったのは、すみれがやはりマッサンの妹だという点。憧憬の対象から裏切られたと早合点したところを着火点に、着の身着のまま、広島から大阪へ大移動です。運良く同郷の春さん(及川いぞう)・秋(しるさ)の営む「こひのぼり」で住み込みとして働くことができたからよかったものの、そうでなければその日は野宿だった可能性もあったワケで……(家族を目の前にして、はじめてあらわれる意固地さもあるでしょうが)。自分が納得できるまでものごとを突き詰める姿勢は、兄・政春そのもの。あるいは、職人肌の父・政志(前田吟)からの遺伝と言えるかもしれません。

そして出社前に訪ねてきたマッサンや、遠く広島の実家から訪れた島爺(高橋元太郎)の説得や質問にまるで耳を貸そうとしない様子からして、振り上げた拳の落としどころに困ったのでしょう。それは「自立した女性」というご都合的な口上の裏側で、子供っぽい感情の憂さ晴らしをしたかったのではないかと推察します。あるいは情動に駆られて、山村先生(須賀貴匡)の家族に自分は特別な関係だのと吹聴していた可能性だってなきにしもあらず(何せあの早苗の実子ですから)。

義姉・エリー(シャーロット・K・フォックス)は言わずもがな、大阪で出会ったキャサリン(種子:濱田マリ)や好子さん(江口のりこ)、みどり(柳ゆり菜)といったモガの典型、ないしは精神的・経済的に「自立」した女性陣に囲まれたことで、すみれ自身が背伸びをしたくなったとして、やむかたなしなのかもしれませんが(モガの主張著しいのは、2015年後期への布石か)。

その後、英一郎(浅香航大)を含めた「こひのぼり」常連たちとの交歓で、一旦は落ち着きかけた感情も、山村先生との再会によって再燃してしまいます。一方的に激情を叩きつけるすみれに対して、教え子の心情をおもんぱかり、頭を下げる山村先生の態度は対照的、まさに子供と大人の対比。それだけに、すみれ自身も己の行いに後悔の念を抱きはじめ、迷い苦しみます。

揺れ惑う乙女心にきっかけを与えてくれたのは、山村先生の婚約者を名乗る女性・川野妙子(マイコ)とエリーとの対話でした。前者は愛情の深さゆえに身を退くことの高潔さを(これは亀山夫妻との対比でもあり)、後者はたとえ失恋でもだれかを愛することに費やしたエネルギーは、けっして無駄にはならないことを気づかせます。もちろん、兄夫婦の大阪での苦労を耳にし、何がそれを克服させたのか、という下地ありきで。

大阪を発つ日の朝、祝言の前に「こひのぼり」を訪れた山村先生へ祝辞を口にするすみれの表情には、人生の苦さを知ったうえでの晴れやかさがあふれていましたね。最後に交わした握手は、男女の別を超え、デモクラシーに向かう日本をよりよく導く同志としてのそれでありました。

劇中後年、教師として女学校で教鞭を執るすみれの、まさに「自立」の第一歩だったワケですね。


さて、今回は「大阪篇」の脇役陣がほぼ総出演で、「こひのぼり」における丁々発止はまさに新喜劇のノリ。舞台俳優や芸人さんで固めた布陣ならではのオモロさで、「麦ロス」の補填には充分すぎる、「お祭」騒ぎでした。

次回・後篇は舞台を余市に移すものの、物語の発端には大阪・住吉酒造の好子さんと池田(前野朋哉)が関わります。とはいえ、こちら(北海道)のワキ陣も濃すぎるメンツです。果たして。