マッサン・番外編 仲よきことは善哉、ぜんざい
2015.5.4

先週に引きつづき、「マッサン」番外篇が放映されました。今回は住吉酒造の好子さん(江口のりこ)が主役となる「たそがれ好子 〜女三人寄れば姦(かしま)しい〜」。

時系列的には、亀山一家が北海道・余市に新天地を求め、北海道果汁株式会社が興り、俊夫(八嶋智人)とハナ(小池栄子)が結婚して数年後、18〜19週目の空白を描く物語でした。


工場の冬期休暇を利用して、マッサン(玉山鉄二)、エリー(シャーロット・K・フォックス)、エマ(優希美青)の3人ははじめての家族旅行に出かけようとしていました。ところがそこへ、マッサンのかつての勤め先である大阪は住吉酒造の好子と池田(前野朋哉)が突然の来訪。ただならぬ雰囲気に、亀山一家はもちろん、森野家をはじめとする余市のひとびとも気後れ気味です。

と、前篇同様あらすじはドラマ自体を見ていただくとして、今回もまた、舞台はニシン御殿(森野家)とエリーハウスのみというミニマムさ。好子を発端とし、たまたま居合わせた中島チエ(酒井若菜)とハナを巻き込んでの「結婚の理想と現実」、そして「愛情は理屈の物差しでは計れない」という教訓めいた内容のお話でした。


七輪を囲んでダンナの悪口を肴に盛り上がる、嫁3人の姿は日本中どこにでもある光景なのかもしれません(囲炉裏を囲んでヤケ酒をあおる男衆の様子もまたしかり)。おもしろいのは、エリーが「完璧な妻」という共通の認識があって、自分たちの立つ瀬がないと嘆いていたところです。なるほど、第18週までの紆余曲折を思えば、マッサンはいつ愛想を尽かされてもおかしくなかったワケで(それこそ亀山の実家から即帰国も)、その点についてはある意味ファンタジーの要素と言っても過言ではないのでしょう。

そして、波瀾万丈の人生はそれだけでどこか派手に見えてしまいがちです。大阪での退屈な毎日に嫌気が差し、ダンナとのケンカという些細な着火点から「非日常」を求めすぎた好子の暴走は、それまでのシュッとした(女性に使うのはいささか不適切ですが)彼女のイメージとは正反対の、何とも乙女な印象であり、マッサンへの思慕も含めてやむない行為だったのかもしれませんね。モヤモヤをため込んで爆発させるのは、青春のお家芸といったところで。

言葉を覚え、他人との距離を推し量る経験を積みながら、なかなかに上手くゆかない夫婦関係。それぞれの家庭を知りつつ、熊虎(風間杜夫)や一馬(堀新太)のひと言から、あらためて夫との結びつきに思いを馳せる3人でしたが、結局亀山夫妻礼賛の結論に至ります。冒頭で自分たちが口にした「ちいさなことの積み重ね」が、夫婦関係を善くも悪くもしてしまうという皮肉には、苦笑いを隠しきれませんよね。


別コラムでも紹介した「逃げるは恥だが役に立つ(海野つなみ:講談社刊)」で描かれる契約結婚のかたちは、「だれかの飯炊き女として一生を終わる」という当時の大半の女性たちにすれば、精神的にも経済的にも自立できるという点で一石を投じる男女の関係性となったかもしれません。もちろん、利害が一致し、契約だからこその、やりがいの相互関係は、現代社会でも充分通用すると思います。

結局のところ、池田が熊虎に指摘された「惚れた弱み」を盾にやりがいを搾取するという隷属的な関係性が歪んだ家庭を生むわけで、本作風から最悪のケースに陥る夫妻がいなかったのは幸い。それでも、精神的な負債を抱え、それを補填するやりがいを維持するのは、やはり相当な努力が必要なようです。

そういう意味で、言いたいことを言い合い、のべつ幕なしハグしまくるという亀山夫妻の家庭像は、見た目にわかりやすい、努力の一例なのでしょう。


物語のラストで、ハナが好子の本心を知りながら、ついにそのことをだれにも話さなかったのは、彼女自身が好子同様マッサンに対して少なからず思慕の念があったからではないかと推察します。そうなると、マッサンは行く先行く先で、だれかひとりは女性の心に傷跡を残してゆくという、とんでもないジゴロの才能を秘めているワケで……。

魅力的な「夢」や女たらしの才気を持ち合わせない男は、惚れた女を引き留めるのに、とんでもない努力をしなければならないのだと、池田くんに同情しつつ、自戒の念を深めるの今日このごろでした(汗)。


さて、大阪メンバーに負けず劣らず、余市のメンツも濃かったですね。風間杜夫さんをはじめ蛍雪次朗さん(西田進役)、温水洋一さん(中島三郎役)といった名バイプレーヤーが安定の存在感。俊兄ぃのかいらしらも健在で、喜劇らしい喜劇といった印象でした。

本篇が、マッサンとエリーという役を生きた玉山鉄二さんとシャーロットさんのドキュメンタリーであるのなら、番外篇は番外篇らしくザ・ドラマといった観の棲み分けがキチンと出来ていて、スピンオフ作品として純粋に楽しめました。


これで、おそらく「マッサン」としての映像作品は最後。ふたたび「麦ロス」を抱えることを思うと、あるいは2周目も……と考えてしまいます。